「欠品は避けたいが、在庫は必要以上に抱えたくない」——生産管理やSCMの現場では、この相反する要求に日々頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。在庫管理は毎日の実務でありながら、いざ体系的に見直そうとすると、何を指標に、どこから手をつければよいか判断に迷いやすいテーマでもあります。
本記事では、生産管理部長やSCM担当者の方に向けて、在庫管理の基本的な考え方から代表的な管理方法、欠品・過剰在庫が減らない原因、そして改善のポイントまでを体系的に解説します。
目次
- 在庫管理とは
- 在庫管理の目的
- 代表的な在庫管理の方法
- 在庫管理でよくある課題と欠品・過剰在庫の原因
- 在庫管理を改善するためのポイント
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
1. 在庫管理とは
在庫管理とは、原材料・部品・仕掛品・製品といった在庫の「量」「品質状態」「保管場所」を正確に把握し、生産や販売の要求に対して過不足なく供給できる状態を維持する業務全般を指します。
単に倉庫にある物の数を数える「棚卸」とは異なり、在庫管理は入荷・出荷・移動・廃棄といった在庫の動きを継続的に管理し、適正在庫を保つためのマネジメント活動という点が特徴です。製造業では原材料・仕掛品・完成品の在庫を、流通業では商品在庫を対象とし、いずれも需給のズレを吸収するバッファとしての役割を担っています。
棚卸・倉庫管理との違い
「在庫管理」と混同されやすい言葉に「棚卸」「倉庫管理」があります。それぞれの役割は次のように異なります。
- 在庫管理:適正在庫を維持するための継続的なマネジメント活動
- 棚卸:実在庫と帳簿在庫を照合する作業(在庫管理を正しく機能させるための一手段)
- 倉庫管理:入出庫、保管、ピッキングなど倉庫内オペレーションの管理
棚卸や倉庫管理は、在庫管理という大きな枠組みを構成する要素の一つと捉えると整理しやすくなります。
在庫管理の4原則
在庫管理を機能させるうえでは、次の4つが基本原則とされています。
- 在庫の所在が分かる
- 在庫の数量が分かる
- 先入れ先出しができる
- 必要なアクションのタイミングが分かる(発注・補充・廃棄など)
この4原則が満たされていない状態は、後述する欠品・過剰在庫の原因にも直結します。
2. 在庫管理の目的
在庫管理には主に次の4つの目的があります。
- 欠品の防止:必要なときに必要な在庫がなく、生産停止や販売機会の損失が起きるのを防ぐ
- 過剰在庫の抑制:必要以上の在庫を持たないことで、保管コストや資金の固定化、陳腐化リスクを抑える
- 業務効率の向上:在庫の所在や数量を正確に把握することで、探す・数える・確認するといった無駄な作業を減らす
- 経営情報としての活用:在庫データを需要予測や生産計画、資金繰りの判断材料として活用する
つまり在庫管理は、単なる倉庫業務ではなく、生産計画・調達・販売・財務にまたがる経営マネジメントの一部として位置づけられます。
3. 代表的な在庫管理の方法
在庫管理の方法は、品目を分類する方法、発注・補充を行う方法、管理を支えるシステムに分けて考えると整理しやすくなります。対象品目の特性や需要のばらつきに応じて、これらを組み合わせて使い分けるのが基本です。
品目を分類する方法
ABC分析
在庫を金額や出荷頻度で「A(重要度高)」「B(中)」「C(低)」にランク分けし、Aランクの品目には発注頻度や在庫精度を高めるなど、管理の手間をメリハリよく配分する方法です。すべての品目を同じ精度で管理しようとすると工数が膨大になるため、多品種の在庫を扱う製造業・流通業で広く用いられています。
発注・補充を行う方法
定量発注方式(発注点方式)
在庫が一定水準(発注点)を下回ったら、あらかじめ決めた数量を発注する方式です。需要変動が比較的小さい品目や、発注コストを抑えたい場合に適しています。
定期発注方式
一定の周期(週次・月次など)で在庫水準を確認し、必要量を都度計算して発注する方式です。需要変動が大きい品目や、重要度の高い部材の管理に向いていますが、発注のたびに需要予測が必要なため運用負荷はやや高くなります。
ダブルビン方式(二棚法)
同じ部材を2つの容器(ビン)に分けて保管し、1つが空になったタイミングで発注をかける方式です。仕組みがシンプルで、現場での運用がしやすいのが特徴です。
かんばん方式
トヨタ生産方式に代表される、後工程の使用実績に応じて必要な分だけを補充する仕組みです。過剰在庫を徹底的に排除する「ジャストインタイム」の考え方に基づいています。
管理を支えるシステム
在庫管理システム(在庫管理ソフト)の活用
バーコードやRFID、ハンディターミナルなどと連携した在庫管理システムを導入し、適切にデータを更新・連携することで、在庫数の迅速な把握や、発注点の自動アラート、複数拠点の在庫可視化が可能になります。近年はExcel管理から在庫管理システムへの移行を検討する企業が増えています。
在庫管理システム・WMSの活用
在庫管理システムは、商品や原材料が「どこに、何が、いくつあるか」を一元管理・可視化するシステムです。入出庫・移動情報を集約し、在庫数を迅速に把握できるほか、製品によっては発注点アラートや複数拠点の可視化も可能です。
一方、WMSは、入荷検品・棚入れ・ピッキング・出荷といった倉庫内作業を管理するシステムです。バーコードやハンディターミナルを活用し、作業ミス削減や業務効率化、在庫精度向上を支援します。
両者は機能が重なることも多く、名称だけで判断せず、在庫の可視化と倉庫内作業の改善のどちらを重視するか整理したうえで、製品ごとの機能範囲を確認することが重要です。在庫管理システムの選び方や導入のポイントについては、別記事で詳しく解説します。
在庫管理システムの選び方や導入のポイントについては、
〇〇で詳しく解説します。
管理手段としての紙・Excel・システムの違い
在庫管理の方法だけでなく、それを支える管理手段(記録・集計のやり方)も、自社の規模や品目数に応じて見直す必要があります。
| 管理手段 | 向いているケース | 主な課題 |
| 紙・台帳 | 品目・入出庫が少ない | 集計や共有が難しく、記録ミスが起きやすい |
| Excel | 小規模・単一拠点 | 更新漏れ、属人化、複数人での管理に限界がある |
| 在庫管理システム | 多品目・複数拠点 | 導入費用や運用ルールの整備が必要 |
| SCM・需給管理システム | 需要予測や発注計画まで管理したい | データ連携や業務設計が必要 |
品目数や拠点数が増えるほど、紙やExcelでは更新・共有の負荷が大きくなり、管理精度も落ちやすくなります。
需給管理システムの選び方や導入のポイントについては、
〇〇で詳しく解説します。
4. 在庫管理でよくある課題と欠品・過剰在庫の原因
在庫管理では、次のような課題が欠品や過剰在庫を引き起こす原因となっています。

需要・補充設計の課題
需要予測と実需にズレがある
季節変動や販促、突発的な受注変化を予測に織り込めていないと、発注量が実需と乖離し、欠品と過剰在庫の両方を招きます。
発注点・安全在庫が適切に設定されていない
安全在庫や発注点が低すぎると、需要や納期の変動を吸収できず欠品につながります。反対に、欠品を恐れて高く設定しすぎると、過剰在庫を招きます。需要やリードタイムの変化に合わせて、定期的に設定値を見直すことが重要です。
リードタイムを正確に把握できていない
調達から入荷までの期間を正確に把握できていないと発注点の設定がずれ、欠品のリスクが高まります。自社側の把握不足だけでなく、仕入先の納期遅延や供給の不安定さといった外部要因が影響することもあるため、サプライヤーとの情報連携も欠かせません。
在庫データの課題
実在庫と帳簿在庫が一致しない
現物の数量とシステム上の数量にズレがあると、正しい発注判断ができず、欠品や過剰発注の原因になります。
品目マスタや在庫データが整備されていない
品目マスタや在庫データの整備が不十分だと、ABC分析や需要予測などの分析手法を導入しても精度の高い判断ができません。
組織・運用の課題
部門・拠点間で情報が分断されている
生産・購買・営業間で在庫情報が意思決定に必要な頻度で共有されていないと、各部門が独自の判断で発注や生産計画を立ててしまい、在庫の重複や偏りが生じます。
発注判断が担当者に依存している
発注点や発注量の設定が担当者の経験や勘に依存していると、異動や退職によって管理精度が大きく変動し、欠品・過剰在庫の再発につながります。
5. 在庫管理を改善するためのポイント
在庫管理の改善は、一足飛びに完璧な仕組みを目指すのではなく、次のようなステップで段階的に進めることが現実的です。
- 現状の可視化:在庫回転率・欠品率・在庫差異率などのKPIをもとに、拠点・品目ごとの状態を把握する(指標の詳細は別記事で解説予定)
- 品目の重要度に応じた管理方法の使い分け:ABC分析などで品目を分類し、管理方法にメリハリをつける
- 発注ルールの標準化:発注点・発注量・安全在庫の算出ロジックを明文化し、属人化を解消する
- 部門間でのデータ共有:生産・購買・販売部門が同じ在庫情報を参照できる仕組みを整える
- システム活用による継続的な改善:在庫管理システムやSCMツールを活用し、需要予測の精度向上とデータに基づく発注判断を定着させる
在庫管理は一度整備して終わりではなく、需要環境や事業の変化に合わせて継続的に見直していくことが求められます。
6. まとめ
在庫管理の目的は、単に在庫を減らすことでも、欠品を完全になくすことでもありません。品目ごとの重要度、需要変動、調達リードタイム、欠品時の影響を踏まえ、欠品リスクと在庫コストのバランスが取れた状態を維持することが重要です。
まずは在庫回転率・欠品率・在庫差異率などのKPIを確認し、問題が生じている品目や拠点を特定しましょう。そのうえで、需要予測、発注点・安全在庫、調達リードタイム、在庫データ、部門間の情報共有のどこに原因があるかを切り分けます。
原因が明確になれば、品目に応じた管理方法の使い分け、発注ルールの標準化、データ共有やシステム化など、優先すべき対策も見えてきます。在庫管理は一度整備して終わりではなく、需要や供給環境の変化に合わせて継続的に見直すことが、欠品と過剰在庫の抑制につながります。
7. よくある質問(FAQ)
在庫管理はどの部門が担当しますか?
企業によって異なりますが、製造業では生産管理部門や購買部門、流通業では物流・SCM部門が中心となるケースが一般的です。ただし、需要予測は営業・販売部門の情報が欠かせず、発注や在庫水準の判断には財務・経理部門の視点も関わるため、特定の一部門だけで完結する業務ではなく、部門を横断した連携が前提になります。
Excelによる在庫管理は、どの段階で限界になりますか?
品目数や拠点数が増えている、複数人が同時に更新する、といった状況になると、更新漏れや入力ミス、ファイルの二重管理が発生しやすくなります。目安として「担当者しか在庫状況を把握できていない」「拠点間の在庫を合算するのに手作業の集計が必要」といった状態が見え始めたら、在庫管理システムへの移行を検討するタイミングといえます。
在庫管理を改善する場合、何から着手すべきですか?
まずは在庫回転率や欠品率、在庫差異率といったKPIで、自社の在庫管理の現状を数値として可視化することが出発点です。算出式は次の通りです。
- 在庫回転率=出荷金額(または数量)÷平均在庫金額(または数量)
- 欠品率=欠品件数(または欠品金額)÷総受注件数(または金額)×100
ただし、これらを手作業で継続的に算出・追跡するのは手間がかかり、属人化や更新漏れの原因にもなります。在庫・需給管理システムを導入すれば、こうした現状把握を効率化でき、早い段階から検討する価値があります。そのうえで、品目ごとの管理方法の使い分けや発注ルールの標準化へと進めるのがおすすめです。